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鷹山孝弘様作

「いつか夜空の輝きを胸に」




せこいというか、計算高いというか。


とにかく、彼はどうしても我慢できなかったようで、多少強引ながらに彼女を誘う。
後でバレたら怒られるのは、百も承知。
それでも彼は、上手い事彼女を独り占めする事に
成功したのだった。




いつか夜空の輝きを胸に





「なんか、結構賑わってるな」


旅の途中、今日の宿を求めて立ち寄った街で、
まずカロイスが思ったのはそれだった。
宿までの道筋の、いたるところで急ごしらえの店、いわゆる屋台のようなものが組み上げられている。

「何か近いうちにあるのでしょうか?」

きょとんと首を傾げるユリアに対して、
ライドはニコニコと笑いながら口を開いた。

「まあ、旅の途中の俺達にはそこまで
関係ない事だって。それより宿まで急ごう」

「そ、そうですね、ライド様」


なんて言いあいながら、ちょっとだけ歩く速度を上げるライドとユリア。

「……まあいいけど」

なんとなく腑に落ちないものを感じたようだが、確かにライドが言うように、自分達は街のイベントを見て回る旅をしているわけではないので、このまま通過するかと納得する。
だが、彼女は違った。

「……怪しい」

「ん? ベル何か言った?」


ライドの問いかけに、ジトッとした目を向ける勇者こと、ベルだったが。

「別に、なんでもないわ」

そう軽く流して、ライドの隣に並ぶ。
それから、全員に聞こえるように問いかけた。

「今日はこの街で休んで、明日には出発するんだからね」

「勿論♪」


ニッコリと素敵スマイル前回のライド。
カロイスとユリアも頷いたのを確認して、それでもベルは納得いかなかった。

「(……何かありそうね、これは)」

今まで旅をしてきたからこそ、わかる違和感。

「ベッド、寝心地いいといいな~♪」

なんとなく、ライドが隠し事をしている雰囲気を、目敏くベルを感じていたのだった。

そして、その違和感の正体は、夜になってようやくわかった。
部屋は二部屋とり、それぞれベルとユリア、カロイスとライドの男女別にしたのだが、ベルとユリアの部屋をノックする音が。

「開いてるわよ」

ベルがそう言うと、遠慮なく勢い良くバンと開く入り口の扉。
そこから現れたのは、ご存知真意をなかなか読ませてくれない、困った賢者様。

「やあ、ちょっと相談があってきたよ♪」

ライドがそう言いながら、ベルにニコニコと凄く爽やかな笑みを浮かべていた。
このタイミングで相談というのも、謎である。

「……いいけど、今ここで?」

警戒するベルに対して、ライドはチラリとユリアの方へと視線を向けた。

「できれば、二人で話したいんだけど、
ちょっと部屋から出てもいいかな、ユリアちゃん?」

「え? ……ええ、構いませんけど」


ユリアがそう言いながら、首を傾げる。
ベルにしか相談できない、そんな相談事。
一体なんだろうかと考えるユリアだったが、もしかしたらまた、いつかのようにこの街で何か事件が起きるのかもしれない。
あの鋭いライドの事だから、そんな事かなと強引に納得したユリアは、改めて言う。

「何かありましたら、私も頼ってくださいね」

「うんうん、そうするよ必ず」


言ってから、ライドがようやくベルの方へと顔を向ける。

「さ、ちょっと出よう」

「え、ええ……」


なんというか、本当に違和感。
重要な話をするという雰囲気でもなく、むしろ遊びに行く空気と凄く似ている。
本当に、ライドは何を考えているのだろうか。
そう思いながら、ベルはベッドから立ち上がると、ライドと共に宿屋を出るのだった。

そして、出てすぐに理解した。

「よしっ! 上手くいった!」

「……これって」

夜になって、宿の外、街の様子が一変していたのである。
昼間は確認できなかったが、たくさんの屋台で商売品を並べており、それを、住人達が歩き回りながら、見て回ったり買ったりしている。
まるでお祭りだなと思うベルだったが、そのタイミングで、ライドがスッと一歩前に出る。

「さ、デートしよ」

「……は?」

だから、とライドはこれ以上ないぐらいの爽やかな笑みを浮かべると。

「ようやくカロイスくんを置いてこれたんだから、今のうちにデートを楽しもうよ、ベル♪」

「で、デートって……えぇっ!?」

相談があると言っておきながら、これは一体。
目を白黒させるベルに対して、ライドはこのままだと時間が勿体ないと感じたらしく。

「ほら」

「あっ?」

スッと自然に、ベルの手を掴むライド。
そのまま、お祭りの中へと強引にベルを連れ出してしまうのだった。

「……なるほどね」

ようやく冷静になったベルが、ライドから聞いた話を反芻する。

「星祭りだったのね、今日は……一年に一度、大量の流れ星が降り注ぐ、そんな日にあわせたこの街のお祭り」

「そうっ! いやぁ数日前から日程調整するために色々と根回しした甲斐があったよ」

どうやらこのライドという賢者、この街の星祭りに合わせて訪れられるように、数日前から色々なタイミングで旅の調整を
していたらしかった。
そういえば、とベルも気付く。

「二つ前の街で、ライドが腹痛で一日滞在期間をのばしたのって……」

「当たり♪」

なんでこんなのが賢者なのだろうかと、思わず頭をおさえてしまうベル。
すると、そんなの意に介さないライドは、近くにあった屋台に目を止めた。

「あ、ここ装備品扱ってる。結構いいのあるかも」

「……アクセサリの類みたいね」

もう流されるしかないか、と諦めた口調のベル。
それから改めて、ライドと一緒に屋台の商品を眺めていた。

「防御系のアクセサリが多い……けど、なんか可愛いのもいっぱいあるね」

「そうみたいね。ユリアとか喜びそう」

言いながら、一つ手にとってみるベル。
店員の説明によると、石化防止の効果がついているらしかった。
それをまじまじと見つめるベルの横で、チャンスだとばかりにライドが動く。

「おっちゃん、ありがとね」

「ん?」

ベルが気付くと、ライドは既に何か買い物を終えたようで、買った何かをポケットに入れているようだった。

「何か買ったの?」

ベルの問いかけに、ライドはニヒヒと子供っぽい笑みを浮かべる。
それから、夜空を見上げてポツリと呟く。

「そろそろかな……色々な意味で」

「色々な意味で?」

どういう事だろうかと、ベルが首を傾げる。
そして、その直後である。

「どこだ~!? ベル~!?」

「カロイスさん、声が大きいですよ~」

宿の部屋で『ちょっとトイレ』と言ったきり帰ってこないライドを怪しみ、ユリアの残っていた部屋で全てを察したカロイスが、
血眼になってベルとライドを探しているのだった。

「ほら来たっ。急いで逃げるよベル!」

「……はぁ」

合流して祭りを楽しんでもいいのに、どうやらデートにとことんこだわりたいらしい。
本当に、この賢者様の思考回路はわかりたいようなわかりたくないような、そんな複雑な気持ちでいるベル。

「さ、行くよ!」

先程と同じように、ベルの手を取るライド。

「ええ、今行くわ」

こうなったらとことん付き合ってやる。
そう決意したベルは、どうにかカロイス達に見つかる前に、街の隅まで走り去る事ができたのだった。

「ふぅ、走った走った♪」

「そのわりに元気そうね」

街の隅、祭りの喧噪も遠く、屋台もなく周囲が暗い、隠れスポットみたいな場所。

そこにこっそり入り込んだ二人は、肩で息をしつつも、笑っていた。
そう、笑っていたのである。

「お? ベルも楽しい?」

「そういうつもりじゃないけど……なんというか」

そういえば、最初からライドはこういう男だった。

「今度はライドが、どんな楽しい事をしてくれるのかと思ってね」

「ありゃ、ちょっとプレッシャーかな」

言いつつ、笑顔のライドには余裕がある。
いつだってライドは、ベルのために行動していて、最高の選択肢を常に選んできていた。
そして、そんな状況をなんだかんだで楽しんでいたベルもいる。
つまりは、今の状況はとても喜ばしい事に違いないのだ。
だから、ベルが期待の目をライドに向けていると。

「ほら、クライマックスだよ」

「え? ……あっ?」

空を指さしたライドの、その先。
見上げた夜空は雲一つなく、その更に上、どのくらい高いか想像もつかない場所から、いくつもの光の筋が流れているのがわかった。
流れ星、星祭りの目玉である。
次々と降り注ぐ星たちを見て、女の子らしくうっとりとした表情になるベル。

「いっぱい降るなぁ、やっぱり」

なんてライドの言葉に、はっとしてベルは問いかける。

「もしかしてライド、この星祭り初めてじゃないの?」

「今更だね」

なんて苦笑するライドだったが、顔は空に向けたまま。

「一回だけあったよ……すぐ、そのパーティとは離れる事になっちゃったけど」

「あ……ご、ごめんなさい」

いやいや、と笑顔で呟くライド。

「(そういえば、ライドの過去ってあんまりよくなかったんだったわね)」

きっとその時も、ライドはパーティメンバーとしてとても苦労していたの違いない。
だが、それはそれ、これはこれ。

「もしかして、女の子と?」

「えっ?」

瞬間、固まってしまうライド。

それで全てを理解したベルは、くちびるをとがらせるとジトッとした目をライドに向ける。

「へぇ~……女の子と既に、この星祭りに参加した事があったんだ~……へぇ~」

「い、いや、それは……」

珍しいライドの狼狽えに、暫くジトッとしていたベルだったが、途中で我慢の限界に達する。

「ぷっ」

「へ?」


思わず吹き出してしまうベルに、本気できょとんと首を傾げてしまうライド。

「いいものが見れたわ。ご馳走様、ライド」

「え、あ……か、からかったなベル!?」

さてね、と呟きながら笑うベル。
まったく、とライドが苦笑すると、はっとしてポケットからソレを取り出した。

「なんか、ちょっとロマンティックじゃないけど……これ」

「あ、さっきの屋台で?」

そうそう、と言いながらベルに手渡すライド。
首から下げるタイプのアクセサリで、中央に星のマークが入っていた。

「『流星のアクセサリ』だって。幸運を呼び込むっていう、そんな効果があるみたいだよ」

「……これを、私に?」

「むしろ他に誰にプレゼントするんだよ」

言いながら、ニッと笑って見せるライド。
ちょっとばかり不意打ちをくらったベルは、じっとそのアクセサリを見ていたのだが、やがて夜空を見上げると。

「あの流れ星が、モチーフなのよね」

「うん、記念にはぴったりでしょ」

そうね、といいながらアクセサリをしまうベル。

「あれ、つけてくれないの?」

予想外のベルの行動に、されど彼女はとても良い笑顔のまま。

「だって、私だけライドからのプレゼントなんて、カロイスやユリアに不公平でしょ」

「そ、そうだけど……つけてくれた姿、見たかったなぁ」

なんて言いながら、ベルを見つめるライド。
そんな彼の様子に、グッと片腕に両腕をからめるように抱き着くと。

「今は、この星空の雰囲気を楽しみましょ。アクセサリのお披露目は、気が向いたらね♪」

なんて言いながら、強引にライドの顔を星空に向けさせようとする。
そんな、彼女独特の強引さを感じ取ったライドは。

「……まったく」

最終的には、こんな結果ばかりな気がする。

「ベルにはかなわないな、ホント」

「当たり前でしょ♪」

いつも通り、気が付いたらベルのペースに。
だけど、そんな状況も悪くないと思ったライドは、改めて、ベルが流星のアクセサリをつけてくれるその日を夢見て、むしろ星空に願いなんかもしながら、二人きりの星祭りを楽しんだのだった。