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Don Damiano様作

「一年後、あの町で」

<1>


「久しぶり…」

思わず私、ベルはつぶやいた。ライドたちも懐かしそうに、周りを見渡している。


私たちは1年ぶりに、私とライドが出会ったあの町に向かっていた。

最近、私たちは魔王討伐に向かうための情報が得られず、旅に行き詰っていたのだが、

そんな中で、立ち寄った宿の主人から、あの町の宿の主からの手紙を受け取ったのだ。


「前略 勇者ベル御一行様

 この度、私どもの宿は大改修を行いました。

 つきましては、かつてお世話になった皆様にもおいでいただきたく、ご招待いたします。

 〇月〇日に当店においでください。

 ご来店を心よりお待ちしております。」


どうせこの辺りをうろうろしていても、魔王への手掛かりは得られない。

ならばあの町へ戻れば、ひょっとしたら、何か手掛かりが得られるかもしれないと思い、

私たちはあの町へ戻ることにした。


あの町に近づくにつれ、私は1年前のことをいろいろ思い出していた。

ライドに初めて会った時のこと、カジノでのデート、呪いの森での出来事…。

呪いの森まで思い出した時、周りの景色にふと、違和感を感じた。

あれ、この辺りって、何か前と違うような…。

でも、何が違うのか、はっきり思い出せない。何なのだろう…?

その時、カロイスも違和感に気付いたのか、声を上げた。

「おい、この辺って、前よりも明るくなってないか?」

そういえばそうだ。1年前に通った時より、ずっと明るい。

でもなぜ…。考えを巡らせ、やっと思い出した。

「あっ!あの時の『呪いの森』が無い!」

そう、私が魔物にさらわれた子供を助けに入りその魔物に襲われ、ライドに助けられた、あの森。

それが、跡形もなく無くなっていたのだ。

「どういうこと…?」

他の仲間たちも同様に、不思議がっていた。

「ともかく、あの時の宿屋へ行ってみましょう」

ユリアの声に、みんな我に返り、あの町の宿に向かうことにした。



<2>

町についた私たちは、さっそくあの時の宿を探した。

…が、それは建物も看板も大きく目立つように建っており、すぐに見つけることができた。

「うわぁ…すごい変わりよう」

ライドたちも、その変わりように驚いていた。


さっそく宿の入口に入ると、宿の主人が愛想よく迎えてくれた。

「おぉ、勇者様に賢者様、ようこそおいでくださいました。待ちわびておりましたよ。」

ライドとユリアはさっそくはしゃいでいる。

「ヒャッホウ!招待だからタダなんだよな!?」

「ステキ…1年前よりもずっと広くきれいになってます…」

そんな中、カロイスだけは、怪訝な顔をしていた。

「なぁオヤジ…1年前は、値切りも全くしなかったのに、今日は招待だなんて、どういう風の吹き回しだ?」

主人はにこやかに答える。

「へへへ、実は宿代はもういただいているのですよ。お支払いいただいたのは…」

「あっ、勇者様たちだ!勇者様ぁ~」

幼い声が、奥の食堂から聞こえてきたと思うと、小さな男の子が駆け寄ってきた。

「あっ、あれは…リック君ですね!あの時の…」

「本当だ!元気にしてたか!」

その明るい顔を見て、私たちは皆、一様に笑顔になった。あの時、私たちが呪いの森から助け出した子供だ。

でもその時、私はリックの首にきれいな首飾りがあることに気付いた。

あれは、呪守の首飾り…。町の中に呪いなんてないのに、なぜつけているんだろう…。

そう思っていると、その子供、リックの両親がやってきた。

「勇者様!やはり来てくださいましたか!」

「その節は大変お世話になりました。勇者様たちもお元気そうで…」

両親も明るい笑顔で挨拶してくれた。でも、やはりって…。

「あ、もしかして、宿代を払ってくれたのって…」

「はい、私たちが払いました。あの後、大したお礼も言えてなかったので。」

「すると、手紙を送ってくれたのも?」

「それは私がアドバイスしたんですよ」

宿の主人が話に割って入ってきた。

「まぁ、このロビーで立ち話もなんですから、すぐ奥のレストランでお話ししてはいかがですか」

レストランまで併設されるまでに大改装されているなんてびっくり!

宿の主人に促されて、私たちはレストランへ入っていった。


<3>

レストランの席で、リックの両親が手紙について教えてくれた。

「あのあと半年くらいして、宿のご主人に相談したんです。勇者様達に何とかして会えないかってね」

「それで手紙を?」

「勇者様が立ち寄りそうな町を予想して、いくつかの宿に手紙を渡すことにしたんです。でも本当に勇者様に届いてよかったですよ。」

「そうね。私たちも久々に元気なお姿を見れてよかったです。でも…」

「それに、心配でもあったんです。あのあと賢者様が呪いの森から出た後で病院に入ったというのに、いつの間にか病院抜け出して」

あ、と私たちは思った。あの時、カジノで待ってたカロイスとユリアに早く会いたくて、さっさと病院から出て行ったのだ。

ライドの病院代を支払ってなかった…!

それに気づいたとたん、私たちはみんな、目をそらした。病院代を払ってくれって言われたらどうしよう…。

でもその様子に気付いたのか、リックの母親が言ってくれた。

「あ、大丈夫ですよ。賢者様の病院代はあの時のお礼と思って、私たちが持ちましたので、払ってくれなんて言いません」

それを聞いて、みんな一様にほっとした。

「まったく、病院代を払わずに病院を出るなんて、ベルはどこまで猪突猛進なんだ…」

ほっとはしたが、カルロスに呆れられてしまった。


「あ、病院と言えば!」

突然、ユリアが声を上げた。

「リック君、あの後大丈夫だったんですか?今も体、大丈夫なんですか?気分悪いこと、ないですか?」

一気にまくしたてるユリアに、一同、驚いてしまった。

「ユリア、どうしたの?急に…」

「だって、リック君が首につけているの、あの呪守の首飾りですよ?まだ呪いの影響が残っているのかと…」

ユリアが、私の気になっていることを言ってくれた。首飾りをつけているのは、いったい…?

「あぁ、これですか、大丈夫ですよ。ご心配なく、リックはもう元気です」

「じゃあなぜ…」

「少し長い話になりますので、順を追って説明しますね」

リックの母親が、話を始めてくれた。


<4>

「勇者様たちが病院を出てから、リックは1ヶ月間入院してました」

「え?ユリア、リック君を完全に治したんじゃなかったの?」

「ええ、応急措置をして命を取り留めた後、病院のお医者様が『あとは私が面倒を見る』と言いまして」

「それからはお医者様が付きっきりでリックを診てくださったんですよ」

「あぁ、そういえばライドが入院していた部屋にはほとんど医者が来なかったけど、そういうことだったのね」

「去年までは小さな病院でしたからね…。で、その1ヶ月の間に、町の人からいろんな話を聞いたんです」

「と、言いますと?」

「勇者様を助けに、賢者様が呪いの森に入っていったこととか、その時に呪守の首飾りをつけていたこととか」

「あ…全て町の人たちに広まっていたのね」

「それを聞いて思ったんですよ、あんなにリックを苦しめた呪いの森が、あの首飾り一つで無効にできるのか、って」

「え?」

突然、母親の口調が変わったことに、少しびっくりした。

「あんな小さな首飾り一つですよ?カジノでも4番目に安い景品ですよ?メダル100枚ですよ!?」

「はぁ…」

「そんな簡単な装備があれば防げる呪いなのに、なんで今まで誰もあの森を制圧してくれなかったんですか!」

「いや、呪いの首飾りで防げるなんて、私たちも森に入るまでわかりませんでしたから…」

「ま、まぁ、簡単な装備って言っても、冒険者さんにとっては、結構高いものだし…」

私に続いて、リックの父親も、母親をなだめに入った。

しかし、母親は構わずまくしたてる。

「こういうのは、お金も人員もたくさんある、お城の人たちが対処するべきだと思ったんです!もう腹が立って!」

「は、はぁ…」

「それで、リックの退院後に、お城に文句を言いに行ったんです!首飾りを使って、早く森を何とかしろって!」

「妻の陳情は、それはすごい迫力でしたよ…」

「ウン、ママ、すごいケンマクだった」

リックまで話に加わってきた。剣幕なんて言葉を使ったあたりに、その時のすごさと驚きが込められてるように感じる。

「何言ってるの、リックまで、オホホ」

「…」

母親が答えるが、私たちは唖然とするしかなかった。

「そしたら、お城の兵士さんもびっくりして、すぐに対策を立てるって、言ってくれたんです」

「…」

びっくりしたのが、首飾りで呪いを防げることか、それともこの母親の迫力だったかは…考えないことにした。

「で、数日後に、たくさんの兵士さんが、呪いの森に入っていったんです!みんなあの首飾りをつけて!」

「へぇ…」

「それから3ヶ月くらいで、兵士さんたちが森の木もすべて伐採して、呪いの森ごとなくなったんです!」

「えっ、森ごと?なんで?」

「森に呪いがはびこるなら、森ごと無くしてしまえってことだそうです!」

「うわぁ…」

呪いの森がなくなったことには、こういったいきさつがあったのだ。

しかし、森ごと無くすという発想には、驚くほかなかった。

「たくさんの兵士さんが、町と森を行き来したんだよ!」

リックも教えてくれた。

「この宿にも兵士さんがたくさん、次々に訪れて、利用していったんです。ですよね、宿のご主人さん?」

「その通りです。おかげでたくさんの宿泊料をいただくことができました」

宿の主人がカウンターから答えた。

「それで、その収入をもとに、宿を大改装したんです!今ではこの通り!まさに勇者様様です!」

「へぇ…」

宿がかつてとは比べ物にならないほどに大きくなった理由はそこにあったのだ。

でも、ここまで宿が大きくなるほど兵士が宿代を払っていったからには、合計ではものすごい大人数だったに違いない!

よほど大掛かりな『呪いの森制圧作戦』だったんだなぁ…。

「あ、それで、首飾りです!リック君が首飾りをしてるのはなぜですか!?」

思い出したように、ユリアが叫んだ。あ、そうか。それが本題だった。

「あ、これですね」

母親は特に慌てることなく説明を始める。

「実は、森の伐採が終わった後、お城では呪いの森対策の予算が大幅に余ったらしいんです」

「え?予算?」

「で、その余ったお金で、たくさんの首飾りを購入して、町の子供たち全員に配ってくれたんです。今後の防災のためにと…」

「うわぁ…」

「勇者様たちのおかげで、呪いとか、いろんな脅威を防げるようになったんです。本当に、感謝してます」

私たちの呪いの森での冒険がきっかけになって、ここまでのことが起きていたのだ。本当に驚き…。

「じゃあ、リック君が呪いの病気に苦しむことは、もうないってことですね!よかったです…!」

ユリアは、本当に安心した様子だった。自分が治療に関わった人だから、それも当然だろう。

カロイスもライドも、安心した表情を浮かべていた。


「で、リック君、せっかく病気が治ったんだから、将来の夢とか、新しくできたりしないかい?」

ライドが突然、リックに聞き出した。

「な、なんだよライド、いきなり聞いて…」

カロイスも驚いている。

「だって、これだけの病気から復活できたんだよ?魔力の素質とかありそうじゃん?将来は魔術師なんて、いいと思うけど?」

「何を言うんだ?こんな苦しい経験したんだから、みんなを守る戦士が一番じゃないか!」

「違いますよ、病気の人の気持ちがわかるだろうから、治療師に決まってるじゃないですか!」

「いや、ここは魔術師だよ!」

「違う、戦士だ!」

「絶対治療師ですっ!」

「あぁもう、ユリアまで…」

リックの将来のことで、みんなで言い争いが始まってしまった。

何とかしてこのゴタゴタを止めないと…。

「リック君がどう思ってるかが、一番大切よ。リック君の人生なんだから」

「そうだね、俺もそれが一番知りたい!」

「俺もだ」

「私もです!」

なんとかまとめることができた。

「じゃあ聞いてみるわね。リック君、将来の夢は、何?」

「うーんとね…」

みんなが注目する中、少し間をおいて、リックが答えた。

「長生き!!!」

「え…?」

予想外の答えに、みんな驚いて、しばらく声が出なかった。

てっきり、何か特定の職業かと思ったのに!

少しして、一番初めに声を上げたのは、ライドだった。

「ははは、そうか、病気から治ったんだもんね、長生きすれば、ママもパパも喜ぶよ!」

そうだった、ライドは小さいころに両親を亡くしているから、長生きが一番喜ばれるって、わかるのだろう。

「そうですよ、あと、将来はうちの宿で働くってことも、考えておいてくださいね」

宿の主人が、話に入ってきた。

「今日はこちらのボトルジュースを、私からサービスさせていただきます。皆さんで飲んでください!」

「ヒャッホウ!オヤジ、気が利いてるぅ!」

宿の主人からの思わぬサービスに、ライドは大喜びだ。

「その代わりぜひ、こちらの色紙に、勇者様たちのサインをください!」

「え?どういうこと?」

「勇者様たちが利用された宿となれば、他のお客様も大勢いらっしゃるでしょうから!」

「はは、オヤジ、やっぱりがっちりしてるな」

私たちはそれぞれ色紙にサインし、ジュースをみんなのグラスに注いだ。

注ぎながら考えた。

魔王探しに行き詰って、手掛かりを求めてこの町に戻ってきたけど、

あまり急がずに、訪れた先々の人たちを助けながら、少しずつ魔王に向かっていってもいいんじゃないか。

リックの将来もこれから楽しみだし、将来を待つように、魔王を目指すのも、いいんじゃないか。

「じゃあ、皆さんにジュースもいきわたったことですし、乾杯しましょうか!」

リックの母親の合図で、乾杯することにした。

「では、今後の勇者様御一行のご武運を願って、」

「そして、リック君ご一家の健康を願って、」

「さらに、当店の益々の繁盛を願って…」

「乾杯!!!」


<完>