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鷹山孝弘様作

「アナザーユリア」
お・ま・け♪
注:内容は確かにおまけですが、シリアスですのでご注意ください。










アナザーユリア










「だからオレ達は……ベルとライドの仲間でいて恥ずかしくない、勇者と賢者が
遠慮なく頼ってくれる、そんな仲間でいたいんだよ!」
頭から突っ込んでいった。
正気の沙汰ではないカロイスの行動に、声にならない悲鳴をあげるユリア。
余程自棄になって突撃していったのか、なんとたったの一発で扉の破壊に成功。
「ぁ……う」
だが、そこでカロイスの意識はついに途切れるのだった。
ゆっくりと、勝手に足が動いてしまうユリア。
部屋の中を覗き込むと、どうやらダイニングの扉から出てきた所で力尽きたらしい
大人が一人、おそらく奥にはほかにもいるだろう。
だが、今ユリアが一番意識していたのは、そちらではなかった。
職務放棄なんて言葉が聞こえる気もするが、そこはどうか許してほしい。
「……カロイス、さん?」
頭から突っ込んでいったのだから無理もない、頭部から少量の出血が確認できる。
完全に気を失っているようで、うめき声一つ聞こえてこなかった。
ただ、ユリアにはなんとなくわかる。
放っておいたら、街の住人より先に、カロイスの命が危険だと。
「っ! カロイスさん!」
助けるべき人を目の前にしておきながら、本当に助けたいと思ってしまった
仲間に回復呪文をかけてしまうユリア。
自分がそんな事をしていると自覚して、ふと気付いた。
「(私……最悪です……)」
賢者ライドは、カロイスとユリアに、街の住人を助けてくれと言った。
だからカロイスは、その願いをかなえるために、死にもの狂いで自分の役割を果たしてきた。
だが、今のユリア……今の自分は何をしている?
すぐそこにライドに言われた助けるべき人がいるというのに、自分は今、
誰に回復呪文をかけているのか。
「っ……く……グスッ……」
思い出されるのは、カロイスのあの言葉。


『だからオレ達は……ベルとライドの仲間でいて恥ずかしくない、勇者と賢者が
遠慮なく頼ってくれる、そんな仲間でいたいんだよ!』


「私は……わたし、は……全然……」
カロイスの頭部の治療は終わった。
続けて、先程チラッと確認できた右肩の治療をしようとして、はっと気づく。
「全然……何もできてない……!」
今なら、カロイスが回復呪文を拒絶し続けた理由がハッキリとわかる。
ユリアがすべき事は、街の住人を助ける事。
頭部の治療は間に合った、これならば脳に障害が残る事は無いだろう。
ならば右肩は……今すべき箇所ではない。
「っ!」
すぐさま奥へと走っていき、住人の治療へ。
最速でその家の住人を回復させると、ユリアは倒れているカロイスを家の壁にどうにか
寄りかからせて、すぐに隣の家へと走り出した。
目の前にあるのは、木製の簡素な造りの扉。
「はぁっ!」
ダンッ!
腕を叩き付けるが、びくともしない。
それどころか、今の一発でユリアの骨にひびいたらしく、凄まじい激痛が走った。
「っ……く、うぅ〜……!」
果たして、今ユリアが泣いている理由はなんなのか。
それすらわからず、ユリアはバッと扉へ顔を向けると、ひたすらに拳を打ち付け続けた。


「ライド! あとでたっぷりお説教してやるんだからね!」
「だからさぁ、オレもちゃんと反省してるし、こうして急いでサポートするんだから、
もうちょっと穏便にしようよベル」
「ダメ! あの二人にそんな無茶な事頼んで……急がなくてもいい指示のはずなのに」
「それはない。あのエナジードレインの結界は、生かさず殺さずのギリギリの出力だったけど、
人間には個人差があるからね。とっくに誰か手遅れになっててもおかしくなかったから」
「っ……まったく、それじゃ文句も言えないじゃない」
「じゃあお説教は無しで?」
「それは別! たぁっぷり時間作ってあげるんだから」
「うへぇ〜」
なんて言い合いながら、破壊されている扉を頼りにカロイスとユリアを追いかけるベルとライド。
既に百軒以上の扉が破壊されているところを見ると、ライドの予想以上に
二人はがんばってくれていたようだ。
「(となると、二人の消耗も相当なものだな……厄介な事になってなきゃいいけど)」
「っ、ライド!」
と、先頭を走っていたベルが立ち止まり、口元を手でおさえる。
「どうした……っ!?」
ベルが見ていた先をライドも確認して、目を大きく見開き、言葉を失う。
「ああぁっ!」
ガンッ!
通路にはポタポタと、赤いしみが続いている。
「うああぁぁっ!」
ガンッ!
その先にいる少女は、狂ったように目の前の扉に両手を叩きつけていた。
その手は赤い……というより、黒い。
何かにすがるようなその様子は、懺悔でもしているようだと、ライドは思った。
はっとして背後を振り返ると、数軒前の家の内側から、カロイスのものと
思われる足が確認できた、おそらく壁によりかかっているのだろう。
「……まさか、ユリアちゃん」
カロイスが寝ている家から、今ユリアが扉を叩いている家まで、既に
五軒ほど破壊されている。
あんな調子で、ユリアは扉を一人で破壊し続け、なおかつ治療をしてきたと言うのだろうか。
「無茶だ! 止めるぞベル!」
「ええ!」
さすがのライドも、ユリアの暴走は計算外だった。
血まみれの腕で扉を叩き続けるユリアを、ライドが背後から羽交い絞めにする。
「ああぁっ! やぁっ! やああぁ〜!」
「落ち着けユリアちゃん! 後はベルがやってくれる! キミは回復だけに!」
「ダメなんですー!」
バタバタと暴れながら、涙と血をまき散らして叫ぶユリア。
「私はっ! 私は何もできなくて! 皆さんを全然理解してなくて!
助けないといけないのに! 助ける事が、それが私のすることなのに!」
「じゃあ助けてくれ! ベルもオレもユリアちゃんの力が必要なんだ!」
咄嗟のライドの言葉に、一瞬ユリアの動きが止まる。
「いいかいユリアちゃん? オレ達のパーティで回復呪文が使えるのは、キミだけなんだ。
だからキミがするのは、住人の回復。扉を壊すのはキミの役目じゃない。
そんな事をユリアちゃんがしたら、キミが絶対に壊れる……それに」
これは卑怯なセリフだ、とライドもわかっている。
だが、暴走しているユリアを止めるには、これしかないともわかっていて。
「ここまで倒れるまでがんばってくれたカロイスくんが……今のユリアちゃんを見たら、悲しむよ」
「っ……!?」
「ベル、急いで!」
「ええ!」
勇者の剣で、目の前の扉を破壊するベル。
呆然と立ち尽くすユリアの背中を、ライドがそっと押してやった。
「ほら、ここからはユリアちゃんの仕事だ……頼むよ」
「私の……私の……」
顔をあげると、剣をおろして真剣な表情を向けてくるベルがいる。
「街の住人達を助けるために、私達を助けて、ユリア」
「……はい」
落ち着いたが、完全に落ち込んでもいる。
使命は見えたが、自覚の無かった自分を呪っている。
それを感じ取ったベルとライドは、回復呪文をかけ続けているユリアの背後で、こんな事を呟いていた。
「あの子が『人を助ける事を理解しろ』っていう理由で旅に出された理由……なんとなくわかったわ」
「ああ……そうだな」
ユリアがそれを理解するのは、いつの日だろうか。
そして、ユリア自身が元気を取り戻すのはいつの日だろうか。
……なんてシリアスに締め括ろうとしてみるが、結局はこのおまけストーリー、最終的には
カロイスくんが優しくなぐさめてくれる、あちらの結果と全くかわない事になるので、
どうか安心してほしい。
以上、おまけでした。