ミラクル★トレジャー |
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「魔法のことば」 |
「キートさん。 ごめんね、まだ人がいると思わなくて...」 食事当番のセレーナが片付けをしに食堂へ入ると、まだ食事に手をつけたばかりのキートと目が合った。 「新しい本を買ったから、それを読んでたらこんな時間になってたんだ。 僕のは自分で片付けるからいいよ」 そう言いながら自分の分の皿を寄せる。 「あ、ううん。大丈夫。 急いでるわけでもないから」 そう言うとセレーナは少しソワソワしながら、食堂の入り口で立ち尽くす。 部屋に戻るべきか迷っているのだろう。 それを見かねたキートが「座ったら?」と呼びかけ、セレーナはハッとしてそろそろとキートの正面に腰掛ける。 「今日見かけないなと思ったら、本を読んでたのね。何の本を読んでたの?」 無言も気まずいので、セレーナが口を開く。 すると、ああ、と食べる手を少し止めて話す。 「魔法薬に関する本だよ。 イストリアが倒れた時に薬を調合してみて、興味が湧いたんだ」 興味のあることの話だからか、少し微笑んでいるようにも見える。 なるほど、と頷いて 「前に魔力を高める薬をくれたよね。 今回もキートさんのお陰でイストリアさんを助けられたし...きっと才能があるんだと思うわ。」 そう尊敬の意を示すセレーナ。 褒められた照れ臭さと、『魔力を高める薬』の件の気まずさに、少し目を逸らして「そうでもないよ」と呟く。 「そのうち仕事に活かせたら良いなとは思ってるよ。まだまだ勉強中だけどね」 少し見えてきた将来の夢を語るキートと、優しく頷くセレーナ。 それより、とキートが続ける。 「セレーナの方こそ、あれから凄く魔法の腕が上達したよね。 ...何があったの?」 以前の出来事を思い出しながら問う。 と言うのも、セレーナが知らぬ間に杖を扱えるようになっており、あれからイストリアとの仲も深まっているように感じていた。 その事がどうも引っ掛かっていたのである。 「イストリアさんが私の様子を見に来て、話を聞いてくれたんだ。 そうしたら突然魔物が襲ってきて...咄嗟に魔法を使ったら、師匠の技を使うことができたの」 その時のことを思い出しているのだろう。 セレーナは嬉しそうに、同時に少し寂しそうに笑う。 対してキートは少し不満げに口を尖らせている。 それに気づいたセレーナが慌てて尋ねる。 「えっと...キートさん、どうしたの? 何か変なこと言ったかな...」 「...別に。 イストリアの事は僕も信頼してるし...」 そこまで言ってハッとした。 案の定セレーナは、「イストリアさん?」と疑問を浮かべている。 どう考えても、ここでイストリアの名前を指摘するのは不自然だった。 言い訳を考えようと試みたが、焦っているせいか何も浮かばず 「...っ何でもない。 美味しかったよ、ごちそうさま」 残りのご飯を口に放り込み、食器を持って席を立つ。 「えっ、ありがとう...ってキートさん、食器洗いは私がやるから!」 そうセレーナが追いかける間に、キートはもう蛇口を捻っていた。 結局食器洗いは2人で済ませた。 洗ってる間は沈黙で少々気まずくもあったが、全て洗い終わり、セレーナがキートに向き直る。 「手伝ってくれてありがとう、キートさん。 ごめんね、昨日も当番だったのに...」 それに対してもキートは 「いいよ、食器洗いくらい」 とぶっきらぼうに呟く。 手を拭き終わるとさっさと背を向けて、食堂の出入り口の方へ向かう。 その一歩手前に来たところで、「あの!」とセレーナが呼び止める。 ピタッと止まり、無言で振り返るキート。 「キートさんなら、きっとすごい魔法薬を作れると思う。 だからもっと自信を持って。 私、応援してるね」 かつてセレーナが掛けてもらった言葉。 『自信』という魔法の言葉を贈り、優しく微笑む。 「....」 キートは固まったように暫く沈黙する。 そしてまた目を逸らしながら 「...ありがと」 そう一言告げて逃げるように食堂を出た。 誰も見ていない廊下を進むキートの表情は、いつもよりほんのり綻んでいる。 魔法の効果は抜群だったようだ。 |