ミラクル★トレジャー |
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「共に見る夢」 |
ネリンダ密林での探索をしていたトレジャーハンター一行。 途中での分かれ道に、いつも2人と5人に分かれて行動している。 そして今回2人に選ばれたのが 「それじゃあ、そっちは頼んだよ。 セレーナ、ニグルム。」 「2人とも頑張れヨ!」 イストリアとライラが笑顔で手を振る。 双方広範囲の強力な技を使えるということで抜粋された、セレーナとニグルムという中々珍しい組み合わせ。 他4人の姿はあっという間に消えてしまった。 2人とも口数は少ない方で、道中気まずい沈黙が漂っている。 (ど、どうしよう。 何か話さないと。何か...) 頭をフル回転させながら歩くセレーナ。 すると突然、ホーネットが目の前に現れ、その針がセレーナ目掛けて飛んできた。 「きゃっ...」 目を固く瞑ったその時、キィンと高い金属の音が鳴り響いた。 恐る恐る目を開くと、目の前には剣を構えるニグルムの姿。 すぐそばにいたためか、飛んできた針を剣で弾いて守ったらしい。 その後ろ姿は、どこかライラに似ている。 しばらくその姿に見入っていると 「気を抜くな」 ニグルムの一言によってようやくハッとした。 「ごっ、ごめんなさい!」 すぐに体制を整え、敵を殲滅。 そこまで苦労することなく終え、宝の回収に移る。 ちょうど開錠の必要な宝箱があり、ニグルムが作業に取り掛かる。 セレーナはというと、もう集められるものもなく、ニグルムを見守るしかない。 戦闘中は気にする必要がなかったが、また気まずい沈黙の時間が訪れてしまった。 セレーナはまた頭をフル回転させ、ようやく口を開く。 「あの...さっきは助けてくれてありがとう。 ニグルムさんが居てくれなかったら、きっと直撃してたと思う...」 そう言いながら、その時の恐怖を思い出して小さく震えるセレーナ。 どんなに実践経験を積んでも、やはり攻撃を喰らうのは怖い。 それに対しニグルムは、作業の手を止めずに 「礼はいい」 とだけ返した。 そしてまた訪れる沈黙。 セレーナは何かないかとまた思考を巡らす。 「ライラさんもニグルムさんも、とても強いよね。動きも似ている気がするし...一緒に訓練とかしていたの?」 今度は手を止めるニグルム。 「...少しな。 ライラはオレが動けずにいた間も、欠かさずに鍛錬をしていた。 何かを倒すためじゃなく、守るために、な」 そう呟くニグルムの背は、どこか小さく見える。 以前ライラと2人で話した時、ニグルムは自身の行動を悔やんだ。 「気づいたら、オレよりずっと立派になっていたよ」 寂し気にそう告げた。 ニグルムとライラの過去は、ざっくりとだがセレーナも知っている。 ニグルムのことを思うと、どんどん怒りが湧いてきた。 「ニグルムさんを間違った道に歩ませたのは、周りの人たちなんでしょう? 酷いわ、種族だけで決めつけるなんて...!」 そう杖を握りしめるセレーナ。 そんな彼女を一瞬横目で見やる。 「人間は魔族を恐れ、魔族は人間を嫌う。 それがこの世界の常識だからな」 ニグルムは目を伏せ、諦めたようにそう告げた。 彼は、この現状がどうしようもないことなのだという事を、誰よりも分かっているのだろう。 またしばしの沈黙が訪れ、ニグルムが開錠を再開しようと手をかける。 「私も前までは怖かったんだ。 魔族や魔物は、怖いものだと思っていたから」 ぽつりぽつりと語りだすセレーナと、そんな彼女に視線を向けるニグルム。 「でも、ライラさんやオニキスさんとチャールズ君、ニグルムさんと出会って、それは違うって気づいたの。 ただ、魔族のことを知らなかっただけだったんだって」 先程まで緊張した様子だったが、それが嘘のように堂々と語っている。 自分がギルドで学んできた事を伝えたいと、その一心で。 「間違った先入観で多くの命が傷付く常識なんてあるべきじゃないわ。 お互い知ろうと歩み寄れば、共存だって出来るはずだもの」 そう強く言い切った。 ニグルムは目を見開いてセレーナを見つめている。 しばらく見合ったのちセレーナはハッとして、慌てだした。 「ご、ごめんなさい、1人で熱くなっちゃって... そんな簡単に解決できる問題じゃないよね」 そうため息を吐いて落胆。 1人で突っ走ってしまったことを猛反省する。 一呼吸おいて、ニグルムが口を開いた。 「とんだ夢物語だ。 ...以前のオレならそう言っていただろう」 その言葉にセレーナはパッと顔を上げる。 ニグルムはもう一呼吸おき、 「だが...何故だろうな。 お前達を見ていると、それすら信じられるような気がしてくる」 そう目を細めて呟いた。 そして視線を宝箱に戻し、また作業に取りかかる。 セレーナはその背を見つめたまま、嬉しさと安堵とで思わず笑みを浮かべた。 ようやく宝箱が開き、中を見ると質の良い斧の武器が入っていた。 と同時に、背後から足音が聞こえてくる。 振り返るとライラの姿。 「おっ、こっちも終わったみたいだナ。 ってそれ、新しい武器カ?」 早速斧に食いつくライラ。 ニグルムはそれを彼女に差し出す。 「ああ、使えそうカ?」 「どれどれ...おおッ!見たことない武器だナ。ありがたくもらうゼ!」 新しい武器を得てご機嫌そうだ。 先程の空気はどこへやら、彼女がいるだけでその場が明るくなる。 「ライラさん達も終わったの?」 そうセレーナが尋ねると、大きく頷き、北西を指差す。 「ああ、イストリアたちはもう入り口で待ってるから、早く行こうゼ!」 ライラが武器を器用に振り回しながら真っ先に向かい、 「ライラ、そんなに武器を振り回したら危ないゾ」 妹の後をニグルムが追う。 (...ニグルムさん、以前よりずっと表情が穏やかになった気がする) 人間をあんなにも憎んでいたはずなのに、人間ばかりのこのギルドで、それなりに楽しく過ごしている。 それはきっとこのギルドで、人間のことを少しでも“知れた”からだろう。 少しずつでも変わることは出来るのだ。 正反対でありつつもどこか似ている兄妹の微笑ましいやり取りを眺めながら、セレーナも歩みを進めた。 |