ミラクル★トレジャー |
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「はじめてのきもだめし」 |
「ユヅキお兄ちゃーん!」 元気に廊下を歩くユヅキに駆け寄ってきたのは、ミラとクル。 「ミラとクルじゃないですか〜。 どうしたんです?」 ギルド内で話すことはあまりなく、珍しいなと思いながら問いかける。 「プリムお姉ちゃん達がね、『はいじょう』で『きもだめし』したんだって! ユヅキお兄ちゃんが教えたんだよね?」 「クル達も『きもだめし』したーい!」 キラキラと目を輝かせる2人。 ユヅキもそんな好奇心旺盛な2人に、良い場所を紹介したい気持ちは山々。 しかし、心霊スポットというのは気軽に立ち入っていい場所ではない。 特に子供は危険なため、紹介するのは少々渋られる。 「おや、いいんですか? 確かに良い場所を沢山知ってはいますが、どこもこわ〜いお化けが沢山いるんですよ〜」 もしかしたら食べられちゃうかも、なんて脅しを言ってみる。 しかしこの勇猛果敢な2人にはむしろ火をつけてしまったようで。 「お化けなんてへっちゃらだよ! ミラといればすぐやっつけられるもん!」 「それに、クリプトとファジアみたいにお友達になれるかもしれないよ。だから大丈夫!」 強く胸を張って言う2人に、これ以上言い訳をしても無駄だと判断。 笑いつつもため息混じりに頷く。 「そこまで言うなら、分かりました。 では明日の夜に行きましょう。 それと、マスターに伝えておく事を忘れずに」 そう言うとミラとクルは「やったー!」「ありがとー!」と飛び跳ね、真っ先にマスターの元へ向かっていった。 そんな2人の背を見届けて、「さて」と肝試しの準備に取り掛かるのだった。 翌日の夜、ミラ、クル、ユヅキの3人は、ギルドから然程遠くない場所にある廃家に来た。 古びてはいるが立派な家で、今は蔦や雑草が生い茂っている。 家は林に覆われており、周囲にも人の住む気配はない。 「わあ!ここにお化けがいるの?」 そう中を覗き込むミラ。 クルも一緒に覗く。 ユヅキはそんな2人を見てふふふと笑う。 「はい、よく心霊現象が起きると言われている場所ですね。 霊に会えるかどうかは分かりませんが...」 ユヅキがそう言うと、今にも飛び込みたそうにうずうずしている2人。 事前に勝手な行動をしないよう注意を受けているため、頑張って耐えているようだ。 「では、私はここで待っているので、この蝋燭が消える前に戻ってきて下さい」 そうひとつの小さな蝋燭を手渡した。 実質、制限時間は30分程ということになる。 「わかった!じゃあ行ってくるねー!」 「お化けいるかな〜」 大きく手を振り、しっかり2人で手を繋いで中へと入っていった。 少しすると、中から物音や、「キャー!」という恐怖よりは楽しそうな叫び声が聞こえてきた。 ユヅキはそれを特に心配する様子もなく、(楽しそうだなぁ)と笑顔で待つのだった。 25分ほど経って、ミラとクルが戻ってきた。 蝋燭は消える寸前だ。 2人は息を切らしているものの、表情は明るい。 「お帰りなさい。どうでした?」 ユヅキが蝋燭を受け取りながら尋ねると、またもや目を輝かせる2人。 「すごいんだよ! 勝手に置物が動いたり、風が吹いたり、あとね、置いてあったロウソクに火がついたの!」 「遠くから水の音とか、誰かの声もしたんだけど、お化けは見つからなかったよ。 でも楽しかった!」 とかなり満足な様子。 怖がっている様子の一切ない2人にちょっと残念だと思いつつ、「楽しんでもらえたようで何よりです〜」と微笑む。 「ではこれ以上遅くなる前に帰りましょうか。 帰り道は分かりますか?」 と尋ねると、2人は「うん」と大きく頷く。 冒険慣れをしているからか、道を覚えるのはかなり得意らしい。 「では私は少しやる事があるので、先に戻っていて下さい。 あまり遅くなると良くないですから」 ミラとクルは「わかった!」と良い返事をし、2人であれが面白かった、あれはなんだったんだろうと話しながら帰って行った。 2人去っていった反対の方から、ガサッと草の音がして、ユヅキが振り返る。 そこにいたのは 「ミラとクル、とても楽しそうでしたね! ボクも雰囲気が味わえて良かったです!」 精霊を引き連れたプリムだった。 ユヅキはにこっと笑いかける。 「ご協力いただきありがとうございました〜。 2人にも貴方にも楽しんでいただけたようで安心しましたよ」 精霊を順繰りに召喚し、それぞれに『心霊現象』を起こしてもらっていたのだ。 この肝試しの協力者でありある意味参加者のプリムは、肝試しのお化け側という新鮮な立場が楽しかったらしい。 ご機嫌な様子で精霊にお礼を言っている。 「でも本当にボク達で良かったんでしょうか? オニキスさんの方がお化け役には適任そうですが」 確かに悪魔の方が雰囲気には合っているだろう。 しかしユヅキは 「それも考えましたが、最初の肝試しにしては刺激が強すぎるかなと。 何するか分かりませんし」 と、彼のことを全く信用していないわけではないが、安全をとってプリムに頼んだそう。 そもそもこの廃家自体、特に心霊スポットでも何でもない、急遽探して見つけた近場の無人の家だったのだ。 「いやぁ、でもプリムさん中々才能あると思いますよ〜。 わざとかは分かりませんが、あえて声を聞かせるのが良いですね」 ミラとクルから聞いた感想からして、かなりハイレベルな演出だったのだろうと思い、称賛するユヅキ。 しかしプリムは首を傾げる。 「声、ですか? ボクも精霊も声や物音にはかなり気をつけていたので、一言も発していないはずですが...」 プリムのまさかの回答に顔を見合わせる。 そして2人で廃家に視線を移す。 そこには林があるだけで、家の跡すら残っていなかった。 翌日、ミラとクル、そしてプリムもひっそり、昨日の出来事を興奮気味に語るのだった。 |